そこに山があるから
そこに山があるから
沢木耕太郎「凍」を読んだ。
最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい登山を続けている彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった―。絶望的状況下、究極の選択。鮮かに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。講談社ノンフィクション賞受賞。(Amazonの内容紹介による)


子どものころからスポーツも山登りも大嫌いだった自分にとって、どんなお話よりもミラクルワールドなノンフィクションだった。

「山にさえ登れていればいい」という言葉が、誇張でもなんでもなくホントにその通りな二人で、この人たちにとっては生きる為に呼吸することと山に登ることは同じことなんだなとすんなり納得させられてしまう。

8000メートルになんなんとする山上の風景というのはいったいどんなものなんだろう・・・。零下30℃とか40℃とかの中を何十時間も休みなく氷壁にへばりついて、上へ上へとよじ登っていく世界とは・・・・・
そんな所の、たった50センチの岩棚で二人だけで過ごす夜というのは・・・
その先にある、頂上から見る光景とは・・・・・・・

その風景を見ることができる幸福というのは、たくさんの困難を困難とも思えないほど山に取りつかれた一握りの人たちのものであって、たくさんの些末なことに捉われて生きている私なんかに到底手の届くものではないのだ。
同じ時代に、同じ人間として生まれて、こんなにも違う世界を生きる人がいるなんて・・・・・

・・・・と、とにかく感動して圧倒されて、ここ数日はその余韻に浸って、今日はNHKオンデマンドで見れる「NHKスペシャル 夫婦で挑んだ白夜の大岩壁」を見た。
これは、山野井夫妻が「凍」で書かれたギャチュンカンから帰還した5年後に、グリーンランドの大岸壁に挑んだ記録。
ギャチュンカンで手足の指を何本も失っても(妙子さんなんて両手の指を全部失っている)、山に(岩に)登りたいという気持ちは失くすことがなく、そのことで結果的に二人は何も失くしていないに等しいんだなと思えてしまうことが、すごい。

そしてまた、お二人の夫婦としてのたたずまいが。
愛だとかなんだとか、そんなこと口にする必要もないというか。
そんな言葉で表現して欲しくないというか。
同じモノを目指す者同士の絆。
私も若い頃憧れ、俗世間の日常生活の前に脆くも壊れた理想が、ここにあると思った。


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