感動的美談のような取り上げ方をされているけれども、深刻な内容の本だと思った。

この本の内容には二面性があると思う。
ひとつは、親として子どもにどう向き合うか。
もう一つは、人としてガンという病とどう向き合うか。

この本の著者、安武さんの奥様の千恵さんは、がんを抱えながらはなちゃんを産む。そして、どこまでこの子を育てていけるかわからない、という思いを持ちながらはなちゃんを育てる。
また、なんとかしてガンを克服したいという思いから、代替医療に傾倒する。

その心情は、健康な者には計り知れないものがあると思うから、このご夫婦の子育てと病との闘い方に何かを言うなんてできないし、ましてや(某ショッピングサイトのレビューみたいに)責めることなんて許されないと思う。

が。

が、なのだ。

千恵さんがもう本当に末期になった時(逆算して亡くなる3日ほど前)、ご主人が娘さんのはなちゃんに「ねえ、はな、お母さんの病気、なおるやろうか」と訊く。
もうご主人としても余裕がなくなっていて、はなちゃんから「大丈夫だよ、きっと治るよ」と答えてほしい、という気持ちでの問いかけなのだが、はなちゃんは「だめかもしれんねぇ」と答えるのだ。5歳の娘が、だ。

その後、千恵さんが亡くなってからの生活の描写のなかでも、はなちゃんがいかに周囲の大人を気遣い、なんでもできる子に育っているか、ということが書かれているのだが、私はそれを素直に肯定することはできなかった。
もっと素直に悲しませてあげないといけないんじゃないのか・・・という危惧のようなものを感じてしまって、お父さんの信吾さんも一生懸命やっておられると思いつつ、悲しみが少しずつ癒えて行く中ではなちゃんの「子ども時代」を取り戻してあげて欲しいと願ってしまった。

しかし、千恵さんの母親としての気持ち、母として娘にできるだけのことを教えておかねば、という気持ちと姿勢には頭が下がった。
本来なら、病気であるなしにかかわらず、母としては誰もがこうであるべきなんじゃないのか、と思えて、自分の子育てを振りかえり恥じ入るばかり。
考えてみれば、命に限りがあることも、親が子どもより先に逝くことも、誰にとっても同じことなんだから、親となったからにはこのくらいの気持ちで子どもと向き合わないといけないんだよな・・・と今更気付いても遅かりし。


代替医療について。
難しい問題だ。
私の家でも、父があと半年と余命を告げられた時に、弟がいろいろ調べて来て代替医療(民間医療)に頼った。
総合病院で、自宅でできる抗がん剤治療を受けながら、民間療法をやっている無保険の病院にもかかった。
医療費は月々15~20万、薬(というよりサプリメント)代が月々4~5万。
私の実家は裕福ではないので、この金額は大変だった。
それに、総合病院の医者と代替医療の医者とは、お互いまったく無関係という立場で、相互の治療がリンクするということがない。
総合病院の医者は、父が民間療法もやっているということに、あからさまに不快感を露わにした。
千恵さんが頼った「ブラックジャック」なる人物は、自分は絶対にこんな人に頼りたくない、と思うようなイヤな奴だ。治療に使ったと言う「黒い液体」についても、最後までその成分は謎のまま。(ブラックジャックなる人物は、信吾さんからその成分を訊かれたことを「信頼されていないと感じて不愉快」だと述べている)

しかし結果的に父は、一旦ガンが見えなくなり、2年生き延びた。
父の受けた治療法と千恵さんの受けた治療法は違うものだけど、安武千恵さんも一旦はガンが消滅している。
父は医者から「今は消えても必ず再発する」と言われて、それまでの治療を変わらず継続して、結果2年。
千恵さんはガンが消えてからがんセンターに行かなくなり、定期検査も受けなくなり代替医療で始めたマクロビオティックやホールフードを中心とした食餌療法に傾倒していく。
しかし、1年後には全身転移、そこから改めて抗がん剤治療も再開して2年半。

医学というのは素人が考えるほど簡単にはいかないものなのは十分承知しているけれど、こういった代替医療の効果について、ちゃんと医学的に研究がされているのだろうかと思う。
余命を宣告されるようなガンが、一旦でも消滅する、そのことについて「医学的な」研究、というのは。
そのあたりのことで、医学と民間療法の間にパイプができて繋がりができたら、主治医にいやな顔をされたり、ブラックジャックのような性質の悪い「名医」が出てきたりすることもなくなるんじゃないか。
そして、ガンに代替医療が一定の効果があるとわかれば、組み合わせることでよりよいガン治療につながるんじゃないのか。

せめて、医学と民間療法の間にある深い溝をなんとかすることはできないんだろうか。
当事者となった家族はいろんな不安を抱えることになるのに、そんな時に頼りの医者から上から目線で否定的なモノ言いをされるのは精神的に更にダメージが大きい。
そのくらいのことは医者にはわかっていてもらいたいし、ブラックジャックのようなヤツはそのあたりを利用しているようにも思えて腹立たしい。

しかし、千恵さんは最後まで「信じる道」を行った。
末期の痛みも全部受け入れて信念を貫いたその強さには敬服する。
家族は大変だっただろうけど、ご主人は本当に辛かっただろうけど、病院に入れてしまうような「逃げ」は打たずに最後まで「妻はどうしたいんだろうか」という視点で頑張られた。
その姿勢は称賛されるべきだと思う。

とにかく、近しい人の看とりや自分自身の生き方(死に方)ということについて、とても考えさせられた1冊。

コメント

磯野コンブ
2012年12月13日16:00

これは書評を読んでぜひ読みたいと思っていた一冊。
図書館でリクエストしてからだからいつも遅くなるんだよねえー。
題名から受けるほのぼの感と違って、本を読んで賛否両論あるみたいですね。
書評では代替医療についてだけ書かれてたけど、きっと私も読んだらもりのいずみさんと同じくしっかりしすぎるはなちゃんのこれからが心配になる・・・と思います。

ありす
2012年12月13日18:51

私も興味がありつつ・・前にテレビでこの家族の事を取り上げていたのを見ました。幼い女の子がけなげに家事をするのはすばらしいけど、本当に痛々しい感じしました。そんな子を残していくお母さんもさぞやつらかったでしょうね。

もりのいずみ
2012年12月14日20:16

☆磯野コンブ様
もしかして、朝日新聞の書評でしょうか?もしそうなら、私もです。
職場が本屋なので翌日には購入して読んだのですが、読んでる最中から自分の中で賛否両論が渦まいて、感想がまとまるまでしばらくかかりました。
本文には書かなかったけれど、この本はダンナ様のリハビリでもあるのだろうと思いました。
本当に本当に大変で、辛かったんだろうなって。それを誰かにわかってもらいたいんじゃないのかなって。
だから賛否両論はとりあえずおいといて、大変でしたね、辛かったですね、頑張りましたねって言ってあげたいと思いました。

もりのいずみ
2012年12月14日20:20

☆ありす様
テレビでずいぶん話題になったらしいのですが、私はそれは知らなくて・・・。
なのでどんな風な取り上げ方だったのかわからないのですが、幼くして母を亡くした女の子がけなげに・・・というようなものだとしたら、原作(?)はちょっと違うと思います。
機会があったらぜひ読んでみてください。

磯野コンブ
2012年12月15日9:55

そうそう。朝日新聞!

最新の日記 一覧

<<  2025年7月  >>
293012345
6789101112
13141516171819
20212223242526
272829303112

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索