ユンディ・リ(ピアノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ダニエル・ハーディング
録音:2014年1月、2月 ベルリン
すごい・・・・・
こんなキラキラしたベートーベン、聴いたことない。
キラキラしてて、切なくて官能的で・・・
こんなにドキドキする「皇帝」は初めてです。
ユンディ・リのピアノはいつもキラキラしてて、その「キラキラ」は、例えば初夏の日差しのキラキラではなくて、冬の冷たい空気の中で氷の粒がきらめくような、そんなキラキラなんだけど、それはショパンだから似合うのであって、この人がベートーベンを弾くとどんな風になるのだろうと思ってた。
2年前にベートーベン3大ソナタのアルバムが出た時には、そのキラキラが「悲愴」や「月光」には似合うけれど「熱情」にはやっぱりちょっと弱いかな、とも思ったけれど。
でも今回のこの「皇帝」は。
若くて美しい「皇帝」。
少女マンガに出てくるような、美麗な皇帝、という感じ。
まさに、ユンディ・リにしか描き出せない「皇帝」です。
その、ユンディのきらめくようなピアノの音と対照的な、オーケストラの少しこもったような、やっぱり冬の空気のような陰と、ビロードの手触りのようなやわらさのある音。
流麗な演奏。
すごくヨーロッパ的な空気感のオーケストラで、透きとおったユンディのピアノとのバランス、というより化学反応が、素晴らしいですし、そんな「陰のある」ベートーベンというのも、私は初めて聴きます。
指揮者のダニエル・ハーディングという方もお若い方なので、もしかしたら解釈として新しい演奏なのかもしれません。
ベートーベンのイメージって・・・ただ聴いているだけの素人の感覚だけど・・・力強くてストレートっていう、どちらかというと美しいというよりは無骨な、悪く言えば単純な、そういうイメージで、でもそのわかりやすさがベートーベンがクラシックとして広く受け入れられた要素でもあると思っていたけど・・・
この「皇帝」は、まさに古典派とロマン派のはざまにあって、古典派の持つ陰とか複雑さも、ロマン派の持つ流麗さや華やかさも、どちらも併せ持つ、決して単純なんかじゃない奥深い作品なんだよと、ユンディに教えられたような気にもなりました。
19歳で衝撃のデビューをしたユンディ・リも31歳。
カップリングの「シューマンの幻想曲」は、そんな「大人になったユンディ・リ」を感じさせてくれる、甘さ控えめな、でも素晴らしく美しい演奏。
この人の演奏の美しさは、もしかしたら若さゆえのきらめきなのかもしれないと以前は思ったこともあったけど、このアルバムでユンディ・リという演奏家の個性がこの美しさなんだと確信していいんだな~と、なんか安心したというか。
そんなアルバムでもあります。
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