英国ロイヤルオペラハウスバレエ「白鳥の湖」(ライブビューイング)

2017-2018のシネマシーズンプログラムが発表されてからずーーーーっと楽しみに、心待ちにしてきた「白鳥の湖」。
バレエに興味のない人でも知らない人はいないと思われる、それほどポピュラーであっても、いや、逆に、それほどポピュラーであるからこそ、常に常に進化してきている作品です。
今回も、ロイヤルバレエにおいて31年ぶりの新演出、ということで、その世界ではかなりの話題、「大事件」とすら言われていました。
1年近く待っても、上映期間はたったの1週間なので、絶対に見損ねることのないように念入りに予定を立てて、満を持して行ってきました。

私は、バレエは好きでも詳しくはないので、正直今回の「新演出」がどこ、というところまでははっきりわからないのですが、それでも、今までに観てきたものとの違い、というのは随所にありました。

例えば、王子の周りにいる人たち。
オーソドックスなバージョンだと、開幕直後に活躍するのがアクロバット的な踊りをする道化なんですが、それがおらず、王子の友人（親友）が、王子と同じくらい（か、もしかしたらそれ以上）ダンスの場面があって目立ってたり。
同じく、酔っぱらったおっさん的な「教育係」が、ヌレエフ版ではアヤシイ「王子の家庭教師」だったけど、今回は一目で悪魔ロットバルトとわかる超アヤシイ「女王の側近」だったり。

そうえいばこの側近、女王が王子にプレゼントした弓に妙な反応をしたなー、と今思い出した。王子に「これ、どう？」みたいに近づけられて胸を抑えて苦しそうにしてました。
あの弓でロットバルトを射れば、もしかしたらやっつけられたのかもしれないけど、そういうことはなく、結末はオデットが湖に身を投げることで呪いが解かれ悪魔も滅びる、というバッドエンドでしたが。

1幕の王子の誕生パーティーで、友人の男性1人と女性2人で踊られるパ・ド・トロワ、途中で王子が入ってパ・ド・カトルになるバージョンもあるのですが、今回は王子は一切参加せず、3人も、王子の親友と王子の姉妹、ということらしく、3幕の花嫁選びのパーティーでもその3人の踊りがあります。
3人ともプリンシパルがキャスティングされていて（うち1人は日本人の高田茜さん）、見どころを作ったのかなという感じでした。

総じて、非常にわかりやすいものになっていたと感じます。
マイムがとてもはっきりしていて、セリフが聞こえてくるようだったし。
王宮では常に憂うつそうな、何を言われても「いやいや」な王子が、3幕の黒鳥オディールを迎えた場面では終始ニッコニコで、パ・ド・ドゥが終わった時にはもうメロメロ状態というのもちょっと笑ってしまうくらいだったし。
でも、その直後に悲劇が起こるわけで、オディールが高笑いをし、黒鳥がドロドロっとなだれ込んでくる中、「女王の側近」が豹変して王冠まで奪っていく、という展開には唖然としました。

4幕は、もう何を言っても何をしても取り返しがつかない、という絶望感に満ち満ちたものではありますが、この作品にはこの結末の方が似合ってるよなー、と、哀しい気持ちでいっぱいになりながらも満足。

美術がまた素晴らしくてね。
私は特に湖の場面の背景、岩がそびえていて、その向こうに暗い湖が広がっていて、そこに月の光が鈍く一筋射している、という情景が、ほんとに胸を締め付けられるんだけども、好きでした。

主役のオデット/オディールは、マリアネラ・ヌニェスという方で、白城あやか（元宝塚星組トップ娘役）似の、だからなのかちょっと日本的な感じすらするたおやかな美人さんなのですが、ご出身はアルゼンチンのブエノスアイレスだそうで、そのイメージのギャップにちょっとびっくり（アルゼンチン、ブエノスアイレス、と聞くと、情熱的なラテンのイメージなので）
だけど、その和服も似合いそうなマリアネラさんの黒鳥が、絶品でした。
オディールって、オデットとの対比を出そうとする分、妖艶になりすぎたり、はすっぱな感じになってしまったりすることもあるのですが、今回のオディールはまず品があって、毅然としていて、すごく美しくて魅力的で。
だから、暗い湖で出会ったオデットを、明るい光の中でこの人と思ってしまうのもわかる、と思わせてくれるオディールでした。

上演の構成としては、1、2幕を通して上演し、休憩。3幕、休憩、4幕、という形なのですが、1、2幕が終わった段階でもう、感動が胸の中に飽和状態で、3幕を無事に見れるか、と思うくらいでした。
今年のBest 1ステージはこれかもしれない、と8月にして思ってしまう程、素晴らしかったです。