なんとも辛い2冊
なんとも辛い2冊
少女マンガにどっぷり浸かって育った私が特に好きな漫画家さんと言えば、萩尾望都、竹宮恵子、山岸涼子、木原敏江、の4氏。他にも好きな漫画家さんはたくさんいるけれども、この4氏は別格です。

その中のお一人の萩尾望都氏が、マンガ家としての駆け出しだった大泉に住んでいた頃のことを書いたもの、ということで、「一度きりの大泉の話」というタイトルは「こんな若い頃のお話なんて一回きりよ、うふふ」的な意味だろうと勝手に思って、軽い気持ちで読み始めたのでしたが。

購入して見ると、帯に書かれている紹介文の雰囲気が、なんだか不穏・・・?
そして、前書き2ページ読んだところで、これは、このまま先に進んでもいいんだろうか・・・?と怯んでしまいました。

読み終えた今となっては、軽々しく感想を書くことは躊躇ってしまう心境です。

読み終えて、とりあえず竹宮恵子氏の著書「少年の名はジルベール」を探しに書店に走りました。
通販で注文して届くのを待つ余裕もなかったし、電子書籍ではなく紙の本で落ち着いて読みたかったのです。
幸い、すぐに見つかり購入、3時間ほどで読了しました。

5年前に竹宮氏が「少年の名はジルベール」という、こちらも大泉時代を中心に書いた自伝を出しました。
この本が出たために、何も知らない出版関係などの人たちから萩尾氏に「大泉時代を語って欲しい」「竹宮氏と対談してほしい」というオファーが殺到するようになりました。
萩尾氏は今までも何も語って来てないので、それはそれで仕方のないことではあるけれど、断っても断っても、何も知らない人たちからは繰り返しオファーが来る。だんだん「なんで受けないんだ、受けるべきだ」という空気になってくる。
けれど、なんとしても受けられない。
その「お断り」のために、「一度きり」書いた。

これはなんというか・・・
こういうことは、人間関係の中で、ある意味「よくあること」とも言えると思うのです。
萩尾氏は、大泉時代に深く傷つくことがあり、その後これ以上傷つかないように細心の注意を払って生きてきた。
何物でもない一般人であれば、それで済んだ話だったかもしれないけど、萩尾氏は今や、少女漫画界の巨匠となってしまったがために、「黙って逃げ切る」ことができずに、その傷を世間に曝すしかなかった。

萩尾氏の「一度きりの大泉の話」は、そんな本です。
300ページ超ある分厚い本の、最後の方はもうほとんど悲鳴のようです。
「これ以上、私の傷に触らないで!」という。

「少年の名は・・・」では、萩尾氏と竹宮氏と、元々は萩尾氏の友人で後に竹宮氏のブレーンとなった増山法恵氏と3人で共同生活を送っていたいわゆる「大泉サロン」は、自分の萩尾氏への嫉妬から解散に至ったと告白している本です。
ただ、こちらはあくまでも自分自身を省みるものという印象で、今に至るまで癒えない傷を抱えているようには感じられませんでした。

「一度きりの・・・」を読んだ時の「とんでもないものを読んでしまった」という衝撃もかなりなものでしたが、その後「少年の名は・・・」を読んで、その温度差にあらためて愕然としました。
もうこれは、それぞれの性格の違いによるとしか、言えないような気がします。
そして、こんな超個人的な心情も晒す必要に迫られる、有名になるという事はある種、とても残酷な事だなぁと、大好きなお二人であるだけに、胸がつぶれるような思いがした2冊でした。

コメント

ままなっつ
2021年5月6日15:20

もりのいずみさん。本の感想ありがとうございました。
2,3日前に、Twitterでこの2冊についての、ぼんやりとした感想を見て、
興味を持ちました。

萩尾先生がどういう経緯でこの本を書くことになったのか、
少し分かりました。
読むのには心構えが要りそうですね。

もりのいずみ
2021年5月8日21:20

☆ままなっつ様
そうですね、萩尾望都の漫画がお好きであれば、覚悟して読んだ方がいいかもしれません。
また、できれば竹宮氏の本も読まれることをおススメします。
お二人の距離があまりにも遠く、片方しか読まないのは不公平な気がするのです。

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